2020.11.19 15:54『十一月二十二日』著者:ののの「わかちゃんってさ、変わってるよね」「え?」 それは、わたしに審判が下された日。「こんなの書いててさ、なんか暗くない?」 小学三年生だったか四年生だったか。記憶は定かではないけれど、まだわたしがそれほど周囲を疑わず、純粋だったころだ。クラスの子から喧嘩を売られた。唐突に感じたけれど、きっと普段から煩わしかったのだろう。彼女の名前はもう覚えていないのでAとしよう。Aは、わたしと友だちが二人だけで楽しんでいた交換ノートを手に持っていた。教室の真ん中で、鬼の首をとったかのように誇らしげにノートをひらひらさせた。クラスの子たちに注目されて興奮でもしたのか、彼女はノートの内容を面白おかしく朗読した。「Bちゃんもこまってるって言ってたよ」 Bちゃんとは、わたしと一...
2019.12.31 02:12年末年始おすすめの過ごし方・ひとりブック商品作り 執筆者:ののの こんにちは! 皆さんは横暴編集長というボードゲームをご存知でしょうか? 横暴編集長とは、タイトルカード(上)とタイトルカード(下)を組み合わせて面白いタイトルを作っていくパーティゲームです。 先日これを応用したゲームをプレイしたのですが、非常に面白いものでした。皆でやると盛り上がります!! で、ですね。私は一人で遊ぶのが得意なので、一人でも楽しめるものはないかなーと考えて、思いつきました。 今回はその遊び方を伝授したいと思います! 一人遊びの名は『ひとりブック商品作り』 某商品サイトの商品紹介やレビューを自分で作ってみるという遊びです。 年末年始の過ごし方としていかがでしょうか? 実際に私がやってみましたので、ご覧下さい。 かなり楽しいですよ!!■一...
2019.07.31 10:54『夜の校舎で制服デート』著者:ののの◆Part1 愛と美しいと書いて愛美。 その名の通り、彼女はいつも可愛くて美しい。こんな僕と付き合ってくれたなんて今でも信じられない。僕らは確かに付き合っている。愛美ちゃんから告白されたのが半年前。それからの半年間、夢のような日々が続いている。 愛美ちゃんは本当に可愛い。何をしても可愛いのだけれど、それを直接言うのは恥ずかしい。いつも言おう言おうと思っている内に話題が次々と変わってしまうので、僕はいつも可愛いと言うタイミングを失ってしまう。 愛美ちゃんはおしゃべりな子だった。話題もころころと変わって、その度に表情もころころと変わる。楽しく笑っている時も、怒っている時も、常に可愛い。少し意地悪な事を言われることもあるけれど、僕はいつも許してしまう。可愛い...
2020.03.27 12:39【読書コラム】コインロッカー・ベイビーズ - 「絆」という名のコインロッカー 執筆者:KJこんにちは!今回も彩ふ読書会(2020年2月横浜)で課題本となっていた本について、コラムを書かせていただきます。お題となる作品は村上龍の「コインロッカー・ベイビーズ *1」。いつものように、ネタバレも気にせず書いていきますので、未読の方はご注意願います。
2020.02.08 14:04【文芸部創作】F・O・G-Chapter 2 著者:kj※前回の『F・O・G-Chapter 1』はこちらーーーー「よし、今日の割り当てはこれで終わりだ。 今日も一日お疲れ様。」 最後の貨物を受け取り主に運び終わった時、キュクロ復興支援本部から今日の活動の終わりが告げられる。この復興支援現場では大した仕事はしていないサキだったが、本部からの労いの言葉や貨物の受け取り主からの感謝の言葉を聞くと、素直に顔が綻んでしまう。そのまま宿舎に戻ってもいいのだが、夕暮れの街や人々の様子をじっくり眺めるためにも、大きく遠回りして、ゆっくり時間をかけて帰ることにする。サキにとっては、復興業務自体はおまけのようなもので、この遠征中に街やそこに住む人々を観察することのほうが本業に近い。 サキがこの田舎町「キュクロ」に来たのは一ヶ...
2020.01.31 07:18【読書コラム】何者 - 就活という物語の交叉点 執筆者:KJこんにちは!今回も彩ふ読書会(2020年1月東京)で課題本となっていた本について、コラムを書かせていただきます。お題となる作品は朝井リョウの「何者 *1」。いつものように、ネタバレも気にせず書いていきますので、未読の方はご注意願います。
2021.03.29 13:27『ダストバニー・イン・マイ・ヘッド(最終回)』著者:へっけ※前回の『ダストバニー・イン・マイ・ヘッド(第三回)』はこちら 今日の町田市は昨日の町田市とは全然違っている。それは街並みに変化があったり住んでいる人間が全て死んでしまったりした訳ではなくて視覚や肌で感じる空気感、雰囲気が違うという意味でだ。 これまでにない緊張で手足が痺れてきて息も苦しくて過換気症候群を起こしたみたいだ。片膝を床に着いて倒れそうになるが、戦う前に倒れる訳にはいかない。 俺は脳内でナンバガの向井秀徳がシャウトしている映像を繰り返し思い浮かべて気を紛らわせる。少しだけだけれど呼吸が楽になってきた。ありがとう向井秀徳。 自分の部屋で着替えを済ませた俺はママに声をかけようとリビングへ移るが人のいる気配がしない。 嫌な予感がする。 もしかしたら...
2021.01.25 12:46『ダストバニー・イン・マイ・ヘッド(第三回)』著者:へっけ※前回の『ダストバニー・イン・マイ・ヘッド(第二回)』はこちら 俺は、夢の世界にいる。 何故そんなことが分かるのかというと鈴ちゃんのバラバラになった死体が目の前に散乱しているからだ。 最強のヒーローであるママがいるのだから鈴ちゃんが穴師に殺される訳がない。 だからこれは夢なのだ。 それも最低最悪の悪夢だ。 俺は鈴ちゃんのバラバラになった手足と胴体と首を抱えながら町田駅へ向かう。 今が何時かも分からないが道中、通行人を一人も見かけることはなかったから町田の住人が全て死に絶えてしまったのかもしれないと思った。 町田駅で八王子行きの電車に乗って車窓から空を眺めると雲ひとつない青空だというのに太陽はどこにも見当たらない。もし太陽が失われてしまっていたとしたらき...
2020.12.22 10:11『ダストバニー・イン・マイ・ヘッド(第二回)』著者:へっけ※前回の『ダストバニー・イン・マイ・ヘッド(第一回)』はこちら 現在、このクソ治安の悪い町田市は、市政始まって以来の惨事に見舞われている。はっきり言って一九六四年に四名の死者と三十二名の怪我人を出した町田米軍機墜落事故を上回ると俺は思っている。まあその時、俺は生まれていないからその事故のことはよく知らないのだけれど。 さて現在の惨事とは何かと言うと、町田市少女七人連続殺人事件。 通称「穴師事件」だ。 何故こんな通称が付いたかと言うとそのあまりに猟奇的な殺害方法に理由がある。 三ヶ月前に初めて殺害された女子高生の荒木舞は、玉川学園前駅近くの公園で死体となって通行人に発見された。 その死体は上半身と下半身が切断されていて、下半身は公園中央に突如としてできた...
2021.12.31 03:05『薔薇の下で』著者:鋤名彦名 埋もれた記憶の中から蘇ってきたその若々しい肉体を、わたしは今から愛でようと思う。その若々しい肉体とわたしの交わりをこの場で公にするが、これが記憶の中にあった断片を繋ぎ合わせたものであるか、それともわたしの筆による空想の産物なのか、それはあなた方の思うままに任せよう。わたしはただ、その肉体との交わりが、わたしの愛であるのか、それとも否であるか、問いたいのである。 記憶の底から蘇ったその若々しい肉体の名はミズキと言い、わたしから四つ離れた血の繋がった弟である。なぜ今わたしの記憶の中からミズキの肉体が蘇り、瞼の裏のスクリーンに映し出されているのか、それは自分でも分からない。スクリーンには十二、三の年頃にミズキの裸体が映っている。ここから少し情景をはっきりさ...
2020.12.28 09:00『瑠璃子の舌』著者:鋤名彦名 楽しみにしていたプリキュアショーを見終えて興奮気味の瑠璃子の手を握り、私たちは園内にある売店でソフトクリームを買った。四歳になる姪の瑠璃子は少し右側に傾いた白い巻貝のようなソフトクリームを落とさないように両手で持ってベンチに座わり、私にプリキュアの描かれた布マスクを外させてから、その白く照っているクリームに薄いピンク色をした舌を伸ばした。ソフトクリームの尖った先端がくるりと丸まった部分を舌先で少し突くようにして舐め、瑠璃子は隣に座っている私の方を向いて「ちめたいね」と言った。そしてまた舌を伸ばし、今度は渦巻の段々を削り取るような力強さでソフトクリームを下から上へと舐め上げた。唇の左端に付いたクリームは皮膚の体温でゆっくりと溶け、滴ると思った瞬間に瑠璃...
2020.11.28 08:50ネタバレブロック ~あなたのネタバレはどこから?~ 執筆者:鋤名彦名 先日こんなことがあった。 私は谷崎潤一郎の『春琴抄』を読み、その感想をTwitterに投稿した。それが以下の文章である。「谷崎潤一郎『春琴抄』読了。春琴と佐助の濃密な主従関係。物語的にはシンプルではあるが、とめどなく流れるような独特の文体がある種の異様さを際立たせている。自ら目を刺し盲目となった佐助が春琴にそのことを告げ、あの沈黙がもたらすなんたるカタルシス。そこには人智の及ばぬものがある。」 この投稿の少し後に、私のフォロワーさんがこんなニュアンスのツイートをしていた。「読了ツイートを見るのが好きだが、さらっとネタバレされていると、驚きと少し複雑な感情になる」 このツイートを見た私は、もしかして俺のことか?と思った。もちろんそんな確証はない。別のツ...
2020.11.28 08:45相対化ツールとしての読書 執筆者:shikada最近になって、自分にとって読書が持つ意義について考える機会があった。現時点で考えていることを、記事にして残しておきたい。この文章で述べたいことは次の2つのことだ。1 本は、非同期型のコミュニケーションが行えるツールである2 非同期型のコミュニケーションを行うことで、自分が生きる世界を相対視できるようになるこの2つについて、順番に整理していきたい。①非同期型のコミュニケーション「同期」とは複数の意味を持つ言葉だが、この文章では「時間を一致させること」という意味で用いることにしたい。また「コミュニケーション」はさしあたって「思考や情報を伝える」という意味で使う。コミュニケーションは、この「同期」を行うものと、そうでないものの2種類に分けられる。同期を行うも...
2020.04.24 14:07【特別企画】リレー小説『読書会』この度、特別企画としてリレー小説を書きました。テーマは『読書会』。7名の参加者でリレーしました。※章の横は担当者の名前です。1(鋤名彦名) 私は今、ある高層マンションの下にいる。送られてきたDMに書かれた住所を入力したグーグルマップは確かにここを指している。あの人はこのマンションの最上階にいるらしい。じっと最上階の方を見上げていると首が疲れてきた。私はまだにわかには信じられずにいる。もう一度DMに書かれた文面を見た。「・・・つきましては我が家で拙著の読書会を開きます。ぜひご参加頂きたい。」 それは一週間前の事だった。「バベル」の名前で読書感想を主に呟いている私のTwitterアカウント宛にDMが届いた。送り主は小説家「犬神和音」からだった。「突然のダイ...
2020.03.21 12:05読書と初見殺し 執筆者:shikada人が本に求めるものはなんでしょうか。本を読む目的は、十人十色で、本のジャンルによっても、本を読む目的は違ってくるかと思います。私自身も、本を読む目的はさまざまです。小説を読むときは、他人の人生をのぞき見させてもらうことが目的ですし、雑学本を読むときは、知的好奇心を満たすことが目的です。目的うんぬんは考えずに、ただただ文体が好きだから読んでいる作家さんもいます。さて、世の中に多様な本があるなかで、私は、社会問題を扱ったノンフィクションを読むことがあります。そうした本を読む目的の一つに、自分自身に降りかかる不幸を回避するための知恵を得ること、があります。どういうことかと言うと、世の中には、何も知らない人、抵抗する力を持たない人を食い物にしようとする悪い大人...
2020.04.24 14:07【特別企画】リレー小説『読書会』この度、特別企画としてリレー小説を書きました。テーマは『読書会』。7名の参加者でリレーしました。※章の横は担当者の名前です。1(鋤名彦名) 私は今、ある高層マンションの下にいる。送られてきたDMに書かれた住所を入力したグーグルマップは確かにここを指している。あの人はこのマンションの最上階にいるらしい。じっと最上階の方を見上げていると首が疲れてきた。私はまだにわかには信じられずにいる。もう一度DMに書かれた文面を見た。「・・・つきましては我が家で拙著の読書会を開きます。ぜひご参加頂きたい。」 それは一週間前の事だった。「バベル」の名前で読書感想を主に呟いている私のTwitterアカウント宛にDMが届いた。送り主は小説家「犬神和音」からだった。「突然のダイ...
2019.12.31 13:32『朝(その1)』著者:Arata.S毎朝、目覚めると煙草を吸う。一吸い目は軽く、ただ肺を動かす。二吸い目で幸福な気分になる。脱ぎ捨てられた魂がまるで煙と共に立ち昇っていくように。マットレスに横たわる肉体と精神が徐々にズレていく。夢の中身が胸に跨っている。なにが地動説だ、天動説だろうが馬鹿野郎、と呟く。天井がホロスコープのように無機質にスライドして相貌を崩す。タバコの新鮮な毒素は起き抜けの身体にあっという間に浸透した。冷たい血がつむじからつま先へサーっと流れていく。毛穴から細かい汗をかく。寒気を覚える。十二月の霧雨のただ中のよう。五分間が三十秒ほどに感じる。まぶたの裏には切れかけた蛍光灯のようなチカチカした点描。仰向けのままその感覚に身をゆだねていると、一日が終わってしまう気さえする。幸せ...
2019.12.31 13:17『ハーピーエンド』著者:Arata.S遮断桿が降りて道路が完全に封鎖されると、人通りで混雑する場所の踏み切り前は行列ができる。先週、込み合うことで定評のある駅前の踏切で電車が通り過ぎるのを待っていたら、自転車に乗ったハゲで浅黒い小太りのおっさんが最後尾から最前列に割り込んでいく場面にかち合った。おっさんは目をギョロ付かせており、ぶつぶつと独り言を喋っている。遅っせえな、だの、チッ...という舌打ちが3メートル離れていても聞こえてきた。周囲にはエアポケットが出来上がっている。苛立っている原因はわからないしわかりたいとも思わなかったが、ママチャリのペダルにかけた足は貧乏揺すりでせわしないうえにリアクションがうるさく非常に目障りで、できれば視界から消えてほしい、入るべき場所に収まってほしいなどと...
2020.04.24 14:07【特別企画】リレー小説『読書会』この度、特別企画としてリレー小説を書きました。テーマは『読書会』。7名の参加者でリレーしました。※章の横は担当者の名前です。1(鋤名彦名) 私は今、ある高層マンションの下にいる。送られてきたDMに書かれた住所を入力したグーグルマップは確かにここを指している。あの人はこのマンションの最上階にいるらしい。じっと最上階の方を見上げていると首が疲れてきた。私はまだにわかには信じられずにいる。もう一度DMに書かれた文面を見た。「・・・つきましては我が家で拙著の読書会を開きます。ぜひご参加頂きたい。」 それは一週間前の事だった。「バベル」の名前で読書感想を主に呟いている私のTwitterアカウント宛にDMが届いた。送り主は小説家「犬神和音」からだった。「突然のダイ...
2019.12.30 09:06『モモ』を読んで 執筆者:ちあき今回はミヒャエル・エンデの『モモ』を読んで、私なりに考えたことをまとめました。彩読では過去に『モモ』が課題本だったことがあるようなので、私がまとめたようなことは皆さんにはもう分かりきった事かも知れないのですけれど、最後まで読んで頂けたら幸いです。
2019.04.30 08:20『地球の終電』著者:ちあき死んだ街に、雨が降り続いている。廃墟の駅で男が一人、ベンチに座って遠くを眺めている。電車は13分前に出発してしまった。次に来るのは1週間後で、それが本当に最後の電車になる。というのも、その電車を最後に人類の移住化計画が完了したとみなされるからだ。男は考えた…。これは選択の問題だ。自分が生活していく為に地球を捨て、自然災害がなく、快適な惑星で暮らすか。それとも「母なる地球」に、景観は変わり果ててしまったが、自らの記憶の中に思い出が残っている地球に留まり続けるのか。「生きることと、生きていくことは違うのだ。そうして両者はけっして、相容れないのだ。」男は初めてこのことに気がついた。つい口からでた独り言を、頭の中で繰り返す。実際、あの大災害、ー誰が言い出したの...
2020.04.24 14:07【特別企画】リレー小説『読書会』この度、特別企画としてリレー小説を書きました。テーマは『読書会』。7名の参加者でリレーしました。※章の横は担当者の名前です。1(鋤名彦名) 私は今、ある高層マンションの下にいる。送られてきたDMに書かれた住所を入力したグーグルマップは確かにここを指している。あの人はこのマンションの最上階にいるらしい。じっと最上階の方を見上げていると首が疲れてきた。私はまだにわかには信じられずにいる。もう一度DMに書かれた文面を見た。「・・・つきましては我が家で拙著の読書会を開きます。ぜひご参加頂きたい。」 それは一週間前の事だった。「バベル」の名前で読書感想を主に呟いている私のTwitterアカウント宛にDMが届いた。送り主は小説家「犬神和音」からだった。「突然のダイ...
2020.04.05 10:01心の支え 執筆者:けんとん皆様こんにちは、いかがお過ごしでしょうか?新型コロナウイルスの影響で混乱されている方も多いかと思います。今は実際に触れたり、訪れたり、そして話たりということが難しい時期です。僕たちができることは限られてきています。しかし裏を返せば選択肢が減り、行動しやすくなったとも言えるのではないでしょうか?人間は多くの選択肢に囲まれていると決断できなくなるという研究データもあります。僕は今大切な事はインプットだと思っています人と会うことに使っていた時間を自分の知識や教養や興味を増やす時間に変えてみてはどうでしょうか。幸い今はインターネットが発達しています。本は電子書籍で読めます。映画も配信サービスが充実しています。そうすることでネット社会の良いとこ取りをしてもっと明...
2019.12.31 07:38『審判』著者:けんとん「それでは裁判を始めます。被告は前に出るように。」「ママァー!!泡空姫が僕のおもちゃ取ったぁぁぁ!!」「違うもん、獣光王が先に叩いたんだもん!!」僕は訳が分からない、なんでこんな場所にいるのか。早く職場に行って仕事をしなくてはいけないのに。「やばーい、この椅子めっちゃ映える!」「絶対、バズるよ!!早く撮ってぇー!」違う、僕はこんなところにいてはいけない。だってやるべきことがあるのだから。「それでは被告、貴方の罪状は暗さという事ですが、これについて色々な方の意見を聞きたいと思います。」僕の裁判のはずなのに誰も僕を見ていない。誰もがそれぞれの中で騒いでいる。「では、はじめに何かある方。」「はい、彼の暗さは伝染します。そばにいるだけで不幸な気持ちになります。...
2019.12.30 13:40『雨、誰かには太陽』作者:うるふ寂しさあふれるこの夜に僕はいつだって星を探してるなんでこんなに近くは曇っててなんであんな遠くは澄んでるの?雨はいつだって冷たくて悲しくなってしまうと思ってただけどこんなにも暖かくて優しい雨があること分かったよあの遠くにある場所に行けば貴方は幸せになると言われても僕はこの場所から離れないこの優しい雨に降られ続けたい僕の心にしまってたこの想いを伝えられる日はいつになったらやってくる?優しい雨よ教えてくれいつかこの雨が遠くに行って僕の心が枯れてしまったらこの雨を追いかけることができるか今の僕には分からないいつかこの雨が止んだ時空は晴れても僕の心は分からないなんでこんなに晴れてるのに僕の心は枯れてしまうのだろう太陽はいつだって暖かくて安心してしまうものだと思っ...
2019.12.30 13:36『リンゴ飴』作者:うるふトラックの群れから飛び出た手私は目を疑った無理やり気持ちを持ってかれて私は自分を振り切ったグルグル回るシーソーやゆっくり回るコースター私は良いとこ分からない貴方は見えない遊園地私はキレイ事だと信じ込む憧れだったものは 汚く不快ものだったそれでも私の心は 汚れないし汚さないリンゴ飴の味は本当よ何もウソはないし現実なの暗い中で光る飴とグラスでもその奥の人は信じないのその手の中には何があるの私には何も伝えないし伝わらない心惹かれるものは目の前に一番大切なことは話さずじまい晴れた日には会わないからと貴方は言う私は貴方を遠ざけたそれでも迷路の中には会わないからと貴方は言う私は自分を遠ざけたこれから起きることは分からないし疑えないのよなんで私の心配はこんなに大きく...
2020.04.24 14:07【特別企画】リレー小説『読書会』この度、特別企画としてリレー小説を書きました。テーマは『読書会』。7名の参加者でリレーしました。※章の横は担当者の名前です。1(鋤名彦名) 私は今、ある高層マンションの下にいる。送られてきたDMに書かれた住所を入力したグーグルマップは確かにここを指している。あの人はこのマンションの最上階にいるらしい。じっと最上階の方を見上げていると首が疲れてきた。私はまだにわかには信じられずにいる。もう一度DMに書かれた文面を見た。「・・・つきましては我が家で拙著の読書会を開きます。ぜひご参加頂きたい。」 それは一週間前の事だった。「バベル」の名前で読書感想を主に呟いている私のTwitterアカウント宛にDMが届いた。送り主は小説家「犬神和音」からだった。「突然のダイ...
2020.01.29 10:41『同じ夢を見ていた』著者:サクライ目が覚めると、店で見かけて欲しかった緑色のかわいいワンピースに身を包まれて、会社の中にいた。高いから買えないなと諦めていたワンピース。なぜ着ている?しかも会社に。会社にワンピースなんて着ていったことはない。そんな服を着ても笑われるに決まっているから。いつも部屋の中で一人、こっそりと着るだけだ。すぐに夢を見ているのだと気づいた。お気に入りのワンピース。誰も、いない無音な会社。非日常な出来事に、わくわくする、なんだこれ、やりたい放題じゃないか。ひゃっほうー言いながらデスクを滑り台代わりに滑る。さすが夢。気持ちいいくらい滑っていく。課長の机、お局の机、嫌味な同僚の机。日頃の鬱憤を晴らすかのように滑って、滑って、机の上に置いてある物を全て、蹴散らしていく。気が...
2020.08.29 09:12『玉しゃぶりやがれ(3)』著者:片側交互通行※前回の『玉しゃぶりやがれ(2)』はこちら3「どこに行くんですか」 久留巣さんの格好はバイトでは見ることのできない可愛らしい姿だった。秋らしいワンピースに薄手のコートを羽織っている。おしゃれだと感動を覚える。一方私は彼女の隣を歩いていいのかと思いたくなるような格好をしている。赤いシャツに黒いパンツ、黒いジャケットという平凡な姿で不釣り合いなのではないかと不安になる。「普段なかなか見れないところ」 ようやくバイトで話ができるようになって四ヶ月経った。 職場では話が弾むこともあった。主に臼井さんのおかげである。売り込みが非常に上手く、将来ああいう人が営業に就くのだろうと思った。 いつも自転車で行動しているので、電車の交通費は痛い出費だったが、ケチな男と思わ...
2020.08.01 09:12『玉しゃぶりやがれ(2)』著者:片側交互通行※前回の『玉しゃぶりやがれ(1)』はこちら 2 木槌の音で目を覚ました。 弁護士が腰を上げている。睡魔と戦い始めたところまでは覚えていた。まあいいや、と思ったら眠りに落ちた。 やはり裁判は刑事事件に限る。民事は退屈でしょうがなかった。後か先か、払ったとか払ってないとか子供の喧嘩のようなものだ。 開廷表を見るために一階に降りる。開廷表はその日裁判が行われる事件の一覧が乗っているものだ。開始時間と何の事件が行われて、被告人の名前と審理予定、判決なのか初公判なのかがわかるようになっているファイルだ。 ロビーに降りると、学生なのか若い女性が開廷表を見ていた。彼女は髪を後ろで縛り、顔に掛からないようにピンで止めていて聡明な印象を受けた。きれいな女性を見ると格好を...
2020.05.27 13:02『玉しゃぶりやがれ(1)』著者:片側交互通行1「うるせぇよ。玉しゃぶりやがれってんだ」 と言いたいのを堪えて頭を下げる。 というのは嘘だ。客に頭を下げたのは本当だ。言いたいことを堪えたという部分は、頭を下げ終わり、客が去ってキッチンに戻ってきたときにセリフと一緒に頭の中から沸いてきた妄想だ。「加藤さん、今の客なんでした」 臼井さんは折りたたみ椅子に座って携帯ゲーム機から顔を上げて尋ねてきた。「漫画の巻が抜けていたのを怒られましたわ。ホンマゴミみたいな客ばっかりですわ」「何の漫画ですか」 少年誌の作品名を上げた。「あ、その漫画俺も読もうと思ったんですけど、やっぱり抜けてますよね。十三巻でしょ。客がパクっていったんでしょうね。ホンマ腹たったんで冷蔵庫殴りましたわ」「よく盗まれますよね」「買うより盗ん...
2019.05.06 04:20【私情まみれの書評】リアルプリンセス①/執筆者:まりこんにちは。今回はポプラ社より刊行されている『リアルプリンセス』をネタバレありで紹介したいと思います。この本には短編が6編収録されているのですが、表題に丸数字が付いている通り、この記事で6つの物語全てを紹介しているわけではありません。というか、今回1つしか紹介しません←クレームは呉々も黄色い悪魔・スギ花粉にお願い致します。奴が私のやる気スイッチをボコボコに破壊していきました。
2019.02.28 09:02【私情まみれの書評】ひきこもりの弟だった/執筆者:まりこんにちは。今回は2019年1月27日に開催された彩ふ読書会で初参加の方の推し本『ひきこもりの弟だった』を登場人物毎にネタバレありで紹介したいと思います。タイトルにある通り最初は書評を書こうと思っていましたが、感想を綴っているうちにヒートアップして色々と崩壊しました←読まれる方は上記ご了承の上お読みになって下さい。
2019.04.07 10:36『透明人間になった男』著者:空川億里今回は300字小説という、全部で300字以内に収まる短い作品です。 俺は長年の研究の結果、透明人間になる薬を発明した。早速飲んで鏡を見ると、服以外は透明になる。服を脱いで裸になって外に出たが、寒くて凍えそうだった。考えてみれば冬なのだ。 春になって、再び薬を飲んで外に出た。足の裏が痛い。当然だ。裸足で路上の石を踏んづけたのだから。実際なってみると、透明人間とは不自由なものだ。 ばかばかしいから帰ろうとしたら、そこへ車が走ってきた。なぜか止まろうとしないので驚くが、考えたら当然だ。見えないのだから。そして今、俺は病院のベッドに寝ていた。全身を包帯にくるまれて。透明人間になるつもりがミイラ男になってしまった。(了)
2019.01.29 11:37『パシリは、観ていた(2)』著者:空川億里 * 神田署に設置された捜査本部に戻った左近は、聞きこみの結果を鯨井警部に報告した。「お前の情報、裏が取れたぞ。蕨駅の防犯カメラに、黒ずくめのサングラスの男が、十時五十分に改札を切符で通るのが映ってた。JRの職員から画像をメールで送ってもらった」鯨井は、自分でパソコンに動画を表示した。確かに晴人と思われるサングラスの男が、黒い手袋をはめた手で切符を改札に入れ通るところだ。時刻表示は警部の説明通り十時五十分だった。「秋葉原駅の動画も、もらった」警部は蕨駅の動画を閉じると、JR秋葉原駅の改札を映した動画を表示した。やはり黒ずくめの人物が、黒い手袋をはめた手でつかんだ切符を自動改札に入れ、電気街口を出たところであった。時刻表...
2019.01.29 11:37『パシリは、観ていた』著者:空川億里 葦名和男は、スマホを見た。十二月三日土曜の午後六時半。ちょうど今京浜東北線蕨駅前のスーパーで、ビールやつまみを買ったところだ。店でもらった、商品の入った白い袋をさげながら、そこから歩いて、葦名より二歳年上の壺屋晴人の自宅に向かった。 晴人は時間にうるさく、少しでも遅刻すれば殴られるので、足早に先を急ぐ。十分後壺屋邸が見えてきた。二階建てプラス地下一階の大きな家だ。ここに晴人はたった一人で住んでいる。 最近まで晴人は女と同棲していたが、現在は解消していた。晴人に特別な用がない限り、毎週土曜夜七時から、葦名はここで飲んでいた。晴人が女と別れる前は、彼女も入れて飲んだ時もある。 葦名と晴人は同じ大学の同じサークルで知りあい、社会人になってからもつきあいが続...
2019.05.07 15:13『「ちょっと今から仕事辞めてくる」を読んで、働くことについて考えてみた』執筆者:夢雲北川恵海さんの「ちょっと今から仕事辞めてくる」は、何のために生きるのか、何のために働くのかを問いかけ、仕事への向き合い方を教えてくれる作品だ。あらすじを追いながら、思ったことを書いてみようと思う。(ネタバレ部分も少しあるので、まだ読んでいない方はご注意下さい。)
2019.03.01 12:58『障子と砂壁の日々』著者:夢雲彩ふ文芸部の夢雲と申します。いつもはタロットカードを引いて、そのカードが教えてくれることを通訳することを仕事にしているので、何もないところから自分で考えて何かを伝えることが、こんなに恥ずかしいとは思いませんでした。フィクションならいいかと創作物を書いてみようと思ったのですが、やってみたら恥ずかしさの点ではなんら変わることがないわけで。いくつか悩める女性の話を書いてみようとしてみましたが、どうしても私の頭の中の物語は人前に姿を現そうとはしてくれません。もう諦めようかと思った時、ふとあることを思い出しました。私がずっと一緒に暮らしていた、ちょっと変わった彼らのことを。中学に入ったばかりでやっと新しい友達が出来た頃、両親から何の相談もなく突然引越しすることを...
2019.05.06 05:00『春』著者:S 友人の音が亡くなり三度目の春が過ぎる。 某スポーツ企業のマーケティング部で多忙な毎日を送っていた彼女は残業を終えた金曜、ご主人と暮らすマンションに戻り、早々と寝室に行きそして土曜の朝になっても二度と目を覚ます事はなかった。お酒が強くて麻雀が上手でお寿司が好物、名前は可愛いけど中身はおっさんだなと仲間内でからかわれていたのが音だった。亡くなった、とご家族から突然連絡が来た時もとても信じられなかった。だって音はまだ若く、どこも悪くない。音が死んだ?あの音が。音から職場の上司だという十五歳上のご主人と結婚すると紹介された日を思い出す。画家のアンディ・ウォーホルに似ていると言うその人は物静かで私は殆ど話をした事がない。まあ芸術家っぽいね、共通点眼鏡かけてるく...