こんにちは。
今回は2019年1月27日に開催された彩ふ読書会で初参加の方の推し本『ひきこもりの弟だった』を登場人物毎にネタバレありで紹介したいと思います。
タイトルにある通り最初は書評を書こうと思っていましたが、感想を綴っているうちにヒートアップして色々と崩壊しました←
読まれる方は上記ご了承の上お読みになって下さい。
+++作品紹介+++
葦舟ナツさんのデビュー作で第23回電撃小説大賞《選考委員奨励賞》を受賞した作品です。
2017年4月の読書メーター「読みたい本ランキングライトノベル部門」で日間・週間・月間トリプル第1位の快挙・・・のようですが私は読書メーターをやっていないのでいまいちピンと来ません。きっととても凄いことなのでしょう、ええ。
+++あらすじ+++
誰も好いたことがない。
そんな僕が”妻”を持った。
『質問が三つあります。彼女はいますか? 煙草は吸いますか? 最後に、あなたは―』
突然、見知らぬ女にそう問いかけられた雪の日。僕はその女――大野千草と“夫婦”になった。互いについて何も知らない僕らを結ぶのは【三つ目の質問】だけ。
まるで白昼夢のような千草との生活は、僕に過ぎ去った日々を追憶させていく―大嫌いな母、唯一心を許せた親友、そして僕の人生を壊した“ひきこもり”の兄と過ごした、あの日々を。
これは誰も愛せなくなった僕が、君と出会って愛を知る物語だ。
(出典:メディアワークス文庫第23回電撃小説大賞受賞作特集サイト
http://dengekitaisho.jp/special/23/hikikomori/)
+++ゴミのような兄・掛橋弘樹+++
まず始めに、弘樹を『ゴミ』呼ばわりしているのは私ではありません。
この小説の主人公であり弘樹の弟でもある啓太です。(大切なことなので最初に言いました)
弘樹は小学校2年生の時にひきこもりデビューします。
幼い頃は主人公を孤独から救ってくれるヒーローのような兄ですが、成長して主人公が外の世界と積極的に関わるようになると兄弟仲が悪化していきます。
ある意味、パワーバランスが崩れると言いますか…。
頼もしかった兄が実は社会に適合出来ない弱者であることに幻滅する弟。
社会の犬、と弟を見下すことで『お兄ちゃん』であることを保とうとする兄。
世の中時に逃げる事も必要だけど、今の社会は逃げ続ける事に寛容ではありません。
でも戦う術を持たない弘樹はとにかく逃げて逃げてひきこもってオンラインゲームに嵌まります←
オンラインだったらネットワーク上で他ユーザーと絡むだろうから、少なからず社会との繋がりがあるのでは?と思われる方もいるかもしれません。
しかし弘樹はオンラインゲームでもソロでプレイしていると思われます。(何の話)
+++ロボットなのではないかと疑っていた母+++
主人公は小さい頃、自分の母親にロボット疑惑を持っていました。
それは保育園から帰るとき母はスイッチが切れたように無表情になるからです。
いつもの帰り道、主人公は幼いながらに母が無理をしていると感じて
「ぼく、おかあさんのことすきだよ」
と言います。
そうしたら、あろうことか母は周囲に誰もいないことを確認して主人公を突き飛ばすんです。
この場面を読んだとき主人公だけでなく私自身もちょっと頭が追いつきませんでした。
シングルマザーで仕事に育児に家事に追われ、さらに頼れる人がいなくて辛かったのかもしれない。
それでもやってはいけないことってあるのでは???
突き飛ばす前に周りを窺っているあたり『一瞬感情的になって思わず手が出た』とも違うわけです。確信犯です。極悪非道です。(言い過ぎ)
この母はとにかく終始一貫して子供の気持ちを汲むことが少ないと感じました。
主人公が大学生になり、兄が社会に出るきっかけとして一緒にバイトをしたい旨を打ち明けると
「お兄ちゃんには合わないと思う」
と取り付く島もない。
合う、合わないは貴女が決めることじゃ、な・い・ん・だ・よ!!!!
……。すみません、取り乱しました←
兄の将来を巡って母と主人公は何度も衝突するのですが、この長い確執が主人公が人を愛さない大きな要因のひとつになります。
+++どことなく兄を彷彿とさせる坂巻+++
主人公の会社の同僚で端的に言えばミスター給料泥棒。
社会から逃げた兄に対して、坂巻は同僚たちの悪口雑言を物ともせず会社に居座り続けるメンタルお化けです。
坂巻は自分のミスを事ある毎に周りのせいにするのですが、しぶとく一つ所にとどまり続けるのは[どこに行っても自分は仕事が出来ない]というのを本当は自覚しているのではないでしょうか。
そうでなければ『この仕事は自分には合わない』と転職すると思うのです…。
会社でのミスは自分の力だけでカバー出来ないとき周りがフォローしてくれます。
しかし会社という組織を抜けた定年後、有事の際に一体誰が責任転嫁ばかりする坂巻を助けてくれるのでしょう。
このまま行けば坂巻は老害確定コースです。
行く行くは社会のお荷物となってしまうであろう所が兄と重なり、主人公は坂巻を嫌悪しながらも完全に見捨てることが出来ずストレスフルな役目を勤める羽目になります。
+++いつも朗らかでいてくれる妻・大野千草+++
主人公の妻で、千草も家族のトラウマを抱えています。
お互い特別な感情を持っている訳ではなく【三つ目の質問】以外は具体的な将来設計がないので、二人の生活は傍目にもおままごとのようです。
千草はいつも笑顔でいます。
主人公が急に晩御飯はいらないと言っても、前々から約束していた旅行に行けなくなっても愚痴を言ったり怒ったりしません。
主人公は母をロボットだと言っていましたが、千草も笑顔を貼り付けた鉄仮面な所があります。
本当は何を考えているのかわからない分、私自身は所々千草に恐怖を感じました。
考えてみてください。知らない人に出会い頭に結婚を迫られたら誰だって怖いよね?!(←そこから?)
愛情ではなくても相手を大切にし逆に自分も大切にされる暮らしを重ねていくうちに、千草に心境の変化が訪れます。
その変化が二人の夫婦生活にも大きな影響を与えていくことになります。
+++ひきこもりの弟だった・掛橋啓太+++
この作品の主人公。
ひきこもりの兄を持ち母の理解を得られず、啓太も自分の殻にひきこもってしまっています。
兄と母を「この人達は弱いから」と憐れに思いながらも、二人とも甘えるな!と憎しみを募らせている。
読む人によっては、兄より憎しみに囚われすぎている啓太の方が病んでいるように見えるかもしれません。
家族と本気で縁を切りたいけど、絶縁後家族が世間に迷惑をかけたらという思い。
そして兄や母に万が一の時があった場合、二人を放置した啓太を責める人が少なからず出てくるかもしれません。
自分の一生が家族に脅かされる苦しみが続いたら、それは性癖がドMでない限りまさに生き地獄なのではないでしょうか。
啓太は自分の感情を表に出さないよう抑えているので全体的に話も淡々と進んでいきます。
その代わり、啓太の「なぜ?」「どうすれば?」という葛藤や「もういい」という諦めの感情がストレートに伝わってきて、読んでいるこちらも啓太と一緒に苦しみから解放されたいと感じるようになります。
+++まとめ+++
最後に、小説を読む上で構成に重点を置かれる方は結末にモヤモヤするかもしれません。
私は主人公が愛を『知るまで』の話ならこの結末は納得出来るのではないかと思いました。
愛を『知った後』の話はまた別のお話になっていくのでしょう。
私達の日常生活で伏線が全て綺麗に回収される事は滅多にありません。スルーされる出来事なんて沢山あります。
『ひきこもりの弟だった』はそのリアリティーが多くの人の心に刺さったのではないかと思うのです。
所詮ラノベだろうと最初は軽い気持ちで読んでいましたが読了した今は、
『愛を知った啓太と千草がそこにある幸せにきちんと手を伸ばせますように』
そう願わずにはいられない作品です。
話は変わりますが、電撃小説大賞公式サイトであらすじを確認したときに偶々番外編があることを知りました。
千草視点と弘樹視点の2本の短編が公開されていますので、本編と合わせて読むと更に物語の深みが増すと思います。
それではここまで拙い文章をお読み頂きありがとうございました。
また懲りずに今後も他の作品を紹介していきたいと思います。
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