2019.04.30 08:21『上書き保存』著者:ののの 四月だというのに年末みたいだな、と思いながら僕はテレビを観ていた。画面には北島三郎や松田聖子が映っていて紅白歌合戦の三十年間を振り返っている。平成について特に思い入れはないものだと思っていたのだけれど、歌で振り返ってみると案外色々と思い出が蘇ってきた。あの年にはあのアーティストが活躍していたな、とか、あんな事があったな、なんて振り返っていく。僕の人生と平成の三十年間はピッタリと重なっていて、まるで自分自身を振り返っているような気分になってきた。 平成が終わるという事は職場でもそれ以外の場所でも何かと耳にしていたし、昔話に花を咲かせる機会も多かった。その会話の中で一つ思い出した事がある。小学生の頃の話だ。 小学生の頃、僕は電車にほとんど乗る機会がなかっ...
2019.04.30 08:20『地球の終電』著者:ちあき死んだ街に、雨が降り続いている。廃墟の駅で男が一人、ベンチに座って遠くを眺めている。電車は13分前に出発してしまった。次に来るのは1週間後で、それが本当に最後の電車になる。というのも、その電車を最後に人類の移住化計画が完了したとみなされるからだ。男は考えた…。これは選択の問題だ。自分が生活していく為に地球を捨て、自然災害がなく、快適な惑星で暮らすか。それとも「母なる地球」に、景観は変わり果ててしまったが、自らの記憶の中に思い出が残っている地球に留まり続けるのか。「生きることと、生きていくことは違うのだ。そうして両者はけっして、相容れないのだ。」男は初めてこのことに気がついた。つい口からでた独り言を、頭の中で繰り返す。実際、あの大災害、ー誰が言い出したの...
2019.04.29 07:00『泡と渦』著者:鋤名彦名 ここ数日でやって来ること。平成の終わり。令和の始まり。そして、締め切り。 そんな他人様にとっては締め切りなんて何のことは分からないだろうが、私は至極焦っているのである。読書会仲間と始めた文芸部サイト。一応部長を勤めている私が締め切りに間に合わないとなるとこれは具合が悪い。今こうやってパソコンの前でワープロソフトを開き、空白のページとにらめっこしている間にも時間は過ぎていく。 足りなかった。圧倒的に創作に対する思考の時間が足りなかった。私の敬愛する作家である村上龍がインタビューでこんなことを言っていた。「小説のアイデアは深く考えるのではなく、長く考える。そうすると泡のようにふっと湧いてくる」このままじっと泡が湧いてくるのを待つしかない。しかしそれがいつ...
2019.04.21 07:00【読書コラム】キッチン - memento mori 執筆者:KJこんにちは!今回も彩ふ読書会(2019年3月大阪)で課題本となっていた本について、コラムを書かせていただきます。お題となる作品は吉本ばななさんの「キッチン」。いつものように、ネタバレも気にせず書いていきますので、未読の方はご注意願います。
2019.04.07 10:36『透明人間になった男』著者:空川億里今回は300字小説という、全部で300字以内に収まる短い作品です。 俺は長年の研究の結果、透明人間になる薬を発明した。早速飲んで鏡を見ると、服以外は透明になる。服を脱いで裸になって外に出たが、寒くて凍えそうだった。考えてみれば冬なのだ。 春になって、再び薬を飲んで外に出た。足の裏が痛い。当然だ。裸足で路上の石を踏んづけたのだから。実際なってみると、透明人間とは不自由なものだ。 ばかばかしいから帰ろうとしたら、そこへ車が走ってきた。なぜか止まろうとしないので驚くが、考えたら当然だ。見えないのだから。そして今、俺は病院のベッドに寝ていた。全身を包帯にくるまれて。透明人間になるつもりがミイラ男になってしまった。(了)