『透明人間になった男』著者:空川億里

今回は300字小説という、全部で300字以内に収まる短い作品です。


 俺は長年の研究の結果、透明人間になる薬を発明した。早速飲んで鏡を見ると、服以外は透明になる。服を脱いで裸になって外に出たが、寒くて凍えそうだった。考えてみれば冬なのだ。

 春になって、再び薬を飲んで外に出た。足の裏が痛い。当然だ。裸足で路上の石を踏んづけたのだから。実際なってみると、透明人間とは不自由なものだ。

 ばかばかしいから帰ろうとしたら、そこへ車が走ってきた。なぜか止まろうとしないので驚くが、考えたら当然だ。見えないのだから。そして今、俺は病院のベッドに寝ていた。全身を包帯にくるまれて。透明人間になるつもりがミイラ男になってしまった。

(了)

彩ふ文芸部

大阪、京都、東京、横浜など全国各地で行われている「彩ふ読書会」の参加者有志による文芸サイト。

0コメント

  • 1000 / 1000