2019.04.07 10:36『透明人間になった男』著者:空川億里今回は300字小説という、全部で300字以内に収まる短い作品です。 俺は長年の研究の結果、透明人間になる薬を発明した。早速飲んで鏡を見ると、服以外は透明になる。服を脱いで裸になって外に出たが、寒くて凍えそうだった。考えてみれば冬なのだ。 春になって、再び薬を飲んで外に出た。足の裏が痛い。当然だ。裸足で路上の石を踏んづけたのだから。実際なってみると、透明人間とは不自由なものだ。 ばかばかしいから帰ろうとしたら、そこへ車が走ってきた。なぜか止まろうとしないので驚くが、考えたら当然だ。見えないのだから。そして今、俺は病院のベッドに寝ていた。全身を包帯にくるまれて。透明人間になるつもりがミイラ男になってしまった。(了)
2019.01.29 11:37『パシリは、観ていた(2)』著者:空川億里 * 神田署に設置された捜査本部に戻った左近は、聞きこみの結果を鯨井警部に報告した。「お前の情報、裏が取れたぞ。蕨駅の防犯カメラに、黒ずくめのサングラスの男が、十時五十分に改札を切符で通るのが映ってた。JRの職員から画像をメールで送ってもらった」鯨井は、自分でパソコンに動画を表示した。確かに晴人と思われるサングラスの男が、黒い手袋をはめた手で切符を改札に入れ通るところだ。時刻表示は警部の説明通り十時五十分だった。「秋葉原駅の動画も、もらった」警部は蕨駅の動画を閉じると、JR秋葉原駅の改札を映した動画を表示した。やはり黒ずくめの人物が、黒い手袋をはめた手でつかんだ切符を自動改札に入れ、電気街口を出たところであった。時刻表...
2019.01.29 11:37『パシリは、観ていた』著者:空川億里 葦名和男は、スマホを見た。十二月三日土曜の午後六時半。ちょうど今京浜東北線蕨駅前のスーパーで、ビールやつまみを買ったところだ。店でもらった、商品の入った白い袋をさげながら、そこから歩いて、葦名より二歳年上の壺屋晴人の自宅に向かった。 晴人は時間にうるさく、少しでも遅刻すれば殴られるので、足早に先を急ぐ。十分後壺屋邸が見えてきた。二階建てプラス地下一階の大きな家だ。ここに晴人はたった一人で住んでいる。 最近まで晴人は女と同棲していたが、現在は解消していた。晴人に特別な用がない限り、毎週土曜夜七時から、葦名はここで飲んでいた。晴人が女と別れる前は、彼女も入れて飲んだ時もある。 葦名と晴人は同じ大学の同じサークルで知りあい、社会人になってからもつきあいが続...
2019.01.14 11:43『カラス』著者:空川億里(そらかわ おくり) とても蒸し暑くてよく晴れた、真夏のある朝。ゴミ出しを頼んだ幼い娘が、いつのまにか、わたしのいるキッチンに戻ってきていた。娘はべそをかいており、潤んだ目で、わたしの顔を見つめている。「黒いのがカアカア鳴いてて、ゴミが出せない……」(また、あいつらね……) わたしは最近生ゴミを捨てる日に、ゴミ置き場に群がってくる汚らしい『奴ら』を思い浮かべながら、ため息をついた。娘は一度ゴミ置き場まで運んでいった生ゴミの入った袋を、そのまま再び持ってきていた。 あいつらは目もいいし、他の動物と比べて知能も発達している。法律が変わって、今は黒いゴミ袋ではなく、中が見える透明なゴミ袋じゃないと外には出せない。それであいつらは外から見える生ゴミを狙ってくるのだろう。「気にしな...