電子書籍の現在地点 執筆者:shikada

唐突ですが、読書家のみなさまは、電子書籍を利用されているでしょうか。


Wikipediaによれば、電子書籍とは「主にインターネット上で流通する電磁的に記録された読み物の総称」であるとされています。要するに、電子書籍とは紙ではなく、PCやスマホ、タブレットなどの画面上で読むことができる本です。電子書籍サービスの種類は多様ですが、代表的な例としては、Amazonの運営するKindleなどが挙げられます。


私は最近、わりかし電子書籍を読むようになりました。スマホひとつで、数十冊の本を持ち運べるのは便利だなぁと思いながら利用しています。いっぽうで、電子書籍の不便なところもたくさんあります。紙の本と比べて、ここは便利、ここは不便、などと、つい比べながら読んでいます。そんな調子で、紙の本、電子書籍を比較して、いろいろ考えたことが溜まってきました。


そこで今回の文章では、2020年1月時点での、紙の本と電子書籍のそれぞれの特徴を、テーマごとに述べてみたいと思います。


電子書籍をよく利用されている方は、ご自分の利用シーンを思い出しながら、あまり利用されない方は、電子書籍ってどんなものか知る参考としてお読みください。


(以下の文章では紙の本と電子書籍を比較していますが、これは両者の特徴を分かりやすくするためです。勝ち負けをつけたり、悪口を言うことが目的ではありません。私個人としては、紙の本と電子書籍は対立するものではなく、「物語を伝える」「情報を伝える」という、本が持つ目的を達成するために、最適な手段が採用されればそれでいいと考えています)


◯紙の本と電子書籍の特徴


・見やすさ(視認性の高さ)

紙の本は、慣れの問題もあるのでしょうが、電子書籍と比較して、見やすいと感じます。


過去に実施されたアンケート調査では「電子書籍を読みたくない」と回答した方のうち、約4割が「画面では読みにくい」と回答されていたとのことです。

https://research.nttcoms.com/database/data/001938/


電子書籍の読みにくさは、画面の小ささ、バックライトのまぶしさなどが原因だと思われます(デバイスによって差があります)。ただし、電子書籍には文字の大きさやフォントを調整できるメリットがあります。


本の話からは脱線しますが、PCのモニターで見て気づかなかった誤字が、プリントアウトすると見つかることがままあります。現代人の目は、まだまだデジタルの画面に適応していないのかもしれません。技術の進歩が、見やすい画面を発明してくれることに期待したいところです。


・検索性

紙の本は、書いてある内容を空間的に把握できます。本の内容を思い出すときに、「この本のあのへんのページに書いてあったはず…」と探して思い出す方法です。また、ふせんやドッグイヤー使って、内容を思い出す助けとすることもできます。


電子書籍は、キーワードで検索ができます。昔読んだ本の内容について「確かこんな単語を使った文章だったはず…」と検索すれば、単語が正しければ、どんな分厚い本でも一発で見つかります。


・価格

紙の本は、再販売価格維持制度(再販制度)という制度があるため、古本を除いて、定価販売となります。食品のセールのように値引きすることはできません。

電子書籍については、再販制度の対象外であるとみなされているため、値引き販売や、定額読み放題のサービスが可能です。印刷や流通のコストがないためか、基本的に紙の本より電子書籍のほうが安いです。電子書籍ストアのセールやクーポンなどを利用すると、信じられないほど安く電子書籍を買うことができます。ただ、安く買った本は、高く買った本より有り難みが薄く感じて、積ん読になってしまうこともしばしばです。


・出版のハードル

一つ前の「価格」でふれましたが、紙の本には印刷や流通のコストがあります。このため、紙の本を出版するハードルはやや高くなっています。出版の方法は賞をとる、自費出版するなどの方法に限られています。


いっぽうの電子書籍は、印刷や流通のコストがないため、出版のハードルが低いです。たとえばAmazonが運営するKindleという電子書籍サイトでは、「Kindleインディーズ漫画」という電子書籍が読めます。その名の通り、メジャーに至らない漫画家が投稿した漫画を読めるのです。もちろん、クオリティは玉石混交ですけれど、出版の間口が広がることは良いことだと感じます。


・重量とスペース

紙の本は圧倒的に重く、場所をとります。百科事典などの大きく、重い本については、この特徴が顕著に現れます。やや極端な例ですが「本で床は抜けるのか」という本では、大量の紙の本を集めた結果、部屋の床が抜けた事例が紹介されています。


蔵書数の多い読書家の方は、大量の本を抱えて保管スペースに困ったり、引っ越しのさいに苦労された経験をお持ちの方がいらっしゃるのではないでしょうか。


本の重さ、スペースについては、以前に国会図書館の職員さんとお話する機会がありました。国会図書館は4000万冊の蔵書を抱えており、蔵書数は年々増え続けています。その職員の方は「紙の本は、数冊なら可愛らしいが、数十冊、数百冊集まると厄介者になる」と言われていたことがあります。これも本の重量、スペースについて語った例の一つかと思います。


電子書籍は、軽く、場所を取りません。わずか数百グラム程度のデバイスで、本を何冊でも持ち歩くことができます。個人的には、電子書籍の持つ最大のメリットだと思います。もちろん、デバイスにダウンロードしておけるデータ容量の限界はありますが、電子書籍のデータ容量は、動画などのデータに比べると大したことはありません。


・所有権

紙の本は、買えば手元に残ります。友人に貸すことも、古本屋に売ることもできます。出版社が潰れようと書店が潰れようと、所有している本が取り上げられることはありません。


電子書籍は、書籍のデータを買っているのではなく、書籍のデータを閲覧する権利を買っています。ですから、もし電子書籍の販売会社が潰れた場合、他会社へ引き継ぎがなされなかったときには、買った電子書籍が全て読めなくなります。(厳密には、ダウンロードを済ませていれば、その端末で読むことはできます。しかし、新しい端末への買い替えや、OSのアップデートにより読めなくなる可能性があります)

現状の電子書籍は、常にこうしたリスクを抱えています。

2018年には、電子書籍サービス「Digital e-hon」が終了し、購入済みの本が閲覧不能になる騒ぎがありました。

https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1804/19/news062.html


・ネット環境の有無

紙の本は、オフラインです。これは、読書に集中するために最適な形態だと私は考えています。


電話、メッセージ、SNSなどの通知が次々に届き、本以外のアプリの存在が常に意識されるスマートフォンでの読書は、かなり集中力が削がれます。ちょくちょく人が話しかけている環境で本を読むようなものです。数ページごとにテーマが変わるハウツー本などであれば、ぶつ切りの読書でも構わないのですが、長編の小説などを読む場合には、オンラインのデバイスは不向きだと思っています。


伊藤計劃「ハーモニー」という小説では、紙の本が電子書籍に取って代わられ、紙の本は一部の物好きのための高価な嗜好品になっている未来が描かれます。そうした状況で、ミァハという人物はあえて高価な紙の本にこだわり、紙の本を読み続ける理由を次のように語ります。


「誰かが孤独になりたいとしたら、死んだメディアに頼るのがいちばんなの。メディアと、わたしと、ふたりっきり」


オンラインで常に誰かと繋がっている時代において、誰にも邪魔されずに自身と本と向き合えるオフラインの環境を作ってくれる、それが紙の本の強みだと思います。


電子書籍は、オンラインです。オンラインであることには、すでに述べたような、集中しにくい欠点がある一方で、利点もあります。たとえば、分からない言葉をすぐに検索できること。グーグル先生の力を借りれば、ある国の公用語はなにか、通貨は、人口は、過去の歴史背景は、などといった疑問にすぐ答えてくれます。


…以上、紙の本と電子書籍の特徴を思いつくままに書いてみました。


紙の本は長い歴史を持ち、改良を繰り返して、ほとんど完成形に達しています。読者も、紙の本の扱いに慣れています。それと比べて、電子書籍はまだまだ発展途上で、その機能にあらが目立つ印象です。読者もまだまだ、電子書籍の扱いには慣れていません。 現時点では、電子書籍より紙の本のほうが読みやすいと感じることのほうが多いです。


とは言っても、電子書籍には、紙の書籍より便利な点、ポテンシャルを感じる点も多々あります。この文章で述べたような電子書籍の長所を伸ばし、短所を補っていくことで、今後ますます電子書籍が進化し、紙の本の相方として、素敵な読書体験を届けてくれることを楽しみにしています。


ここまでお読みいただきありがとうございました。紙の本と電子書籍について、ご意見・ご感想いただけると嬉しいです。

彩ふ文芸部

大阪、京都、東京、横浜など全国各地で行われている「彩ふ読書会」の参加者有志による文芸サイト。

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