この記事は、カズオ・イシグロ著『日の名残り』の、ネタバレを含みます。
未読の方は、ご注意ください。
本記事は、カズオ・イシグロ『日の名残り』土屋政雄訳 早川書房を読んだ感想です。
1はじめに
2017年、カズオ・イシグロさんが、ノーベル文学賞を受賞しました。
このニュースを聞いて、私のように興味を持った方もいるのではないでしょうか。
カズオ・イシグロさんは、1982年『遠い山なみの光』でデビューを果たし、1989年に刊行した『日の名残り』でイギリス最高の文学賞であるブッカー賞を受賞しました。
本記事は私が『日の名残り』を読んだ感想文です。少しでも皆様に楽しんで頂けたなら幸いです。
2あらすじ
老執事スティーブンスは新しい主人のファラディ氏から休日を与えられ、昔一緒に働いていた女中頭ミス・ケントンを訪ねにいく。イギリスの美しい田園風景を眺めながら、昔仕えていたダーリントン卿のこと、慕っていた父のこと、そしてミス・ケントンとの思い出を振り返る。
3ダーリントン卿について
イギリスの美しい風景を眺め、旅を続ける中、スティーブンスはダーリントン卿に仕えていた当時のことを思い浮かべます。
第二次世界大戦へと向かう時代にダーリントン・ホールでは国際会議が開かれていました。会議の内容は、ナチスドイツとの謁見がほとんどで、卿はナチスドイツと親交を持っていたのです。そんな卿を周囲は非難していました。
スティーブンスもその話題はできるだけ避けているようにみえますし、ふれてしまった際には、ダーリントン卿は立派な人だったのだと弁解しています。ダーリントン卿に仕えていたスティーブンスにとって、卿の評価は自分の評価にもなるわけですから、「品格のある執事」でいたいスティーブンスがそうするのも当然でしょう。また、卿に対する世間の評判が良くないことを認めたくないのかもしれません。
4父親について
「一日目-夜」にて、スティーブンスは自分の父親の現役時代のエピソードを自慢します。
しかし、「二日目-朝」ではそんな父親も年老いて、現役から遠のいてしまった様子が語られます。置物の場所が間違っていたり、銀器に磨き粉がついたままだったり、そうして最後にはあずまやでの事件がありました。あの事件はスティーブンスにどのくらいの衝撃を与えたのでしょうか。
「プロローグ」にて些細な過ちをするようになったことを語っています。彼はその原因を仕事を抱え込みすぎたせいであって、ミス・ケントンが戻ってくれば解決することだ、と決めつけています。しかし、彼の父親のことをあわせて考えると、スティーブンスの必死さが感じられます。
5日の名残り
大雨の中、スティーブンスとミス・ケントン-ミセス・ベンは再会します。
昔話に花を咲かせた後、帰りのバス停にてスティーブンスはミス・ケントンにダーリントン・ホールに戻りたい気持ちはあるのか尋ねます。そこで、ミス・ケントンは長年秘めていた本当の気持ちを打ち明けるのです。
海辺にさしかかる夕日を眺めながら、スティーブンスは涙します。そこで出会った元執事に自分のことを語る彼からは悲しみと後悔が感じられます。「人生楽しまなくちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ」元執事に励まされたスティーブンスはある決意をします。ファラディ氏の為にジョークの練習をすることです。最後まで真面目なスティーブンス。
この物語は悲劇ですが、それを乗り越える前向きさに溢れているように思えてなりません。
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