2019.12.31 13:32『朝(その1)』著者:Arata.S毎朝、目覚めると煙草を吸う。一吸い目は軽く、ただ肺を動かす。二吸い目で幸福な気分になる。脱ぎ捨てられた魂がまるで煙と共に立ち昇っていくように。マットレスに横たわる肉体と精神が徐々にズレていく。夢の中身が胸に跨っている。なにが地動説だ、天動説だろうが馬鹿野郎、と呟く。天井がホロスコープのように無機質にスライドして相貌を崩す。タバコの新鮮な毒素は起き抜けの身体にあっという間に浸透した。冷たい血がつむじからつま先へサーっと流れていく。毛穴から細かい汗をかく。寒気を覚える。十二月の霧雨のただ中のよう。五分間が三十秒ほどに感じる。まぶたの裏には切れかけた蛍光灯のようなチカチカした点描。仰向けのままその感覚に身をゆだねていると、一日が終わってしまう気さえする。幸せ...
2019.12.31 13:17『ハーピーエンド』著者:Arata.S遮断桿が降りて道路が完全に封鎖されると、人通りで混雑する場所の踏み切り前は行列ができる。先週、込み合うことで定評のある駅前の踏切で電車が通り過ぎるのを待っていたら、自転車に乗ったハゲで浅黒い小太りのおっさんが最後尾から最前列に割り込んでいく場面にかち合った。おっさんは目をギョロ付かせており、ぶつぶつと独り言を喋っている。遅っせえな、だの、チッ...という舌打ちが3メートル離れていても聞こえてきた。周囲にはエアポケットが出来上がっている。苛立っている原因はわからないしわかりたいとも思わなかったが、ママチャリのペダルにかけた足は貧乏揺すりでせわしないうえにリアクションがうるさく非常に目障りで、できれば視界から消えてほしい、入るべき場所に収まってほしいなどと...
2019.12.31 07:38『審判』著者:けんとん「それでは裁判を始めます。被告は前に出るように。」「ママァー!!泡空姫が僕のおもちゃ取ったぁぁぁ!!」「違うもん、獣光王が先に叩いたんだもん!!」僕は訳が分からない、なんでこんな場所にいるのか。早く職場に行って仕事をしなくてはいけないのに。「やばーい、この椅子めっちゃ映える!」「絶対、バズるよ!!早く撮ってぇー!」違う、僕はこんなところにいてはいけない。だってやるべきことがあるのだから。「それでは被告、貴方の罪状は暗さという事ですが、これについて色々な方の意見を聞きたいと思います。」僕の裁判のはずなのに誰も僕を見ていない。誰もがそれぞれの中で騒いでいる。「では、はじめに何かある方。」「はい、彼の暗さは伝染します。そばにいるだけで不幸な気持ちになります。...
2019.12.31 02:20『面汚し』著者:鋤名彦名 浴室は甘い匂いで満ちていた。チョコレートソース、生クリーム、イチゴジャム、マーマレードジャム。多量に買い込んだそれらの製菓材料は一時間ほどでほとんど空になった。僕は手に付いたチョコレートソースを蛇口のお湯で洗い流す。脱衣所に置いてあったスマホを取り、カメラを浴槽で仰向けになっているミユキに向ける。ミユキの頭部から顔、首元の辺りはチョコレートソースで、胸元から臍の辺りまではイチゴジャムとマーマレードジャム、腹部から下は生クリームで汚れている。まずは全身が写るように撮り、それから顔、胸、下半身とそれぞれの部位をスマホに収めていく。ミユキは自分が汚されていることに興奮し、自らの両手で乳房を愛撫した。それから右手を生クリームに塗れた股間へ持っていき自慰行為を...
2019.12.31 02:12年末年始おすすめの過ごし方・ひとりブック商品作り 執筆者:ののの こんにちは! 皆さんは横暴編集長というボードゲームをご存知でしょうか? 横暴編集長とは、タイトルカード(上)とタイトルカード(下)を組み合わせて面白いタイトルを作っていくパーティゲームです。 先日これを応用したゲームをプレイしたのですが、非常に面白いものでした。皆でやると盛り上がります!! で、ですね。私は一人で遊ぶのが得意なので、一人でも楽しめるものはないかなーと考えて、思いつきました。 今回はその遊び方を伝授したいと思います! 一人遊びの名は『ひとりブック商品作り』 某商品サイトの商品紹介やレビューを自分で作ってみるという遊びです。 年末年始の過ごし方としていかがでしょうか? 実際に私がやってみましたので、ご覧下さい。 かなり楽しいですよ!!■一...
2019.12.30 13:40『雨、誰かには太陽』作者:うるふ寂しさあふれるこの夜に僕はいつだって星を探してるなんでこんなに近くは曇っててなんであんな遠くは澄んでるの?雨はいつだって冷たくて悲しくなってしまうと思ってただけどこんなにも暖かくて優しい雨があること分かったよあの遠くにある場所に行けば貴方は幸せになると言われても僕はこの場所から離れないこの優しい雨に降られ続けたい僕の心にしまってたこの想いを伝えられる日はいつになったらやってくる?優しい雨よ教えてくれいつかこの雨が遠くに行って僕の心が枯れてしまったらこの雨を追いかけることができるか今の僕には分からないいつかこの雨が止んだ時空は晴れても僕の心は分からないなんでこんなに晴れてるのに僕の心は枯れてしまうのだろう太陽はいつだって暖かくて安心してしまうものだと思っ...
2019.12.30 13:36『リンゴ飴』作者:うるふトラックの群れから飛び出た手私は目を疑った無理やり気持ちを持ってかれて私は自分を振り切ったグルグル回るシーソーやゆっくり回るコースター私は良いとこ分からない貴方は見えない遊園地私はキレイ事だと信じ込む憧れだったものは 汚く不快ものだったそれでも私の心は 汚れないし汚さないリンゴ飴の味は本当よ何もウソはないし現実なの暗い中で光る飴とグラスでもその奥の人は信じないのその手の中には何があるの私には何も伝えないし伝わらない心惹かれるものは目の前に一番大切なことは話さずじまい晴れた日には会わないからと貴方は言う私は貴方を遠ざけたそれでも迷路の中には会わないからと貴方は言う私は自分を遠ざけたこれから起きることは分からないし疑えないのよなんで私の心配はこんなに大きく...
2019.12.30 13:20【文芸部創作】F・O・G-Chapter 1 著者:kj 破裂音が山にこだまする… 数分後、ハヤトは2体の龍が洞窟から這い出てくるのを確認する。事前の情報では龍は4体と聞いているので、あとの2体はまだ洞窟内にいるのだろう。できれば1体ずつおびき寄せて各個撃破したいところだったが、2体出てきてしまったものはしかたがない。4体まとめて相手をしなくて良かっただけ御の字だ。 洞窟のかなりの部分が瓦解するほどの爆発規模だったはずだが、その姿や動きにダメージの色は見当たらない。改めて、龍の生命力と、硬い鱗に覆われた体の強靭さを思い知る。その巨体や鋭い爪、口から吐き出される炎に目がいきがちな龍族ではあるが、本当の厄介さはその圧倒的な防御力にある。龍に致命傷を与えられる方法は限られる上、そのどれもに大きな危険が伴う。人と龍...
2019.12.30 10:52負ける美学 執筆者:けんとん皆さま、年の暮れですがいかがお過ごしでしょうか?どんな一年だったでしょうか?僕は沢山の本や映画、音楽そして人と出会いとても充実した年となりました。そしてその中で出会った皆さまがこうやって僕の文章を読んでくださってることを感謝したいと思います。本当にありがとうございます。今回僕が書評を書かせていただく本は「鴻上尚史著 空気を読んでも従わない-息苦しさからラクになる-」です。
2019.12.30 09:06『モモ』を読んで 執筆者:ちあき今回はミヒャエル・エンデの『モモ』を読んで、私なりに考えたことをまとめました。彩読では過去に『モモ』が課題本だったことがあるようなので、私がまとめたようなことは皆さんにはもう分かりきった事かも知れないのですけれど、最後まで読んで頂けたら幸いです。
2019.12.07 11:37「タンノイのエジンバラ」から考える大人像 執筆者:shikada読書会で教わった、長嶋有「タンノイのエジンバラ」という短編集を読んで、考えたことを書きます。あらかじめお断りしておくと、「タンノイのエジンバラ」の本筋とはほとんど関係のない内容です。