2020.04.24 14:07【特別企画】リレー小説『読書会』この度、特別企画としてリレー小説を書きました。テーマは『読書会』。7名の参加者でリレーしました。※章の横は担当者の名前です。1(鋤名彦名) 私は今、ある高層マンションの下にいる。送られてきたDMに書かれた住所を入力したグーグルマップは確かにここを指している。あの人はこのマンションの最上階にいるらしい。じっと最上階の方を見上げていると首が疲れてきた。私はまだにわかには信じられずにいる。もう一度DMに書かれた文面を見た。「・・・つきましては我が家で拙著の読書会を開きます。ぜひご参加頂きたい。」 それは一週間前の事だった。「バベル」の名前で読書感想を主に呟いている私のTwitterアカウント宛にDMが届いた。送り主は小説家「犬神和音」からだった。「突然のダイ...
2019.12.31 13:32『朝(その1)』著者:Arata.S毎朝、目覚めると煙草を吸う。一吸い目は軽く、ただ肺を動かす。二吸い目で幸福な気分になる。脱ぎ捨てられた魂がまるで煙と共に立ち昇っていくように。マットレスに横たわる肉体と精神が徐々にズレていく。夢の中身が胸に跨っている。なにが地動説だ、天動説だろうが馬鹿野郎、と呟く。天井がホロスコープのように無機質にスライドして相貌を崩す。タバコの新鮮な毒素は起き抜けの身体にあっという間に浸透した。冷たい血がつむじからつま先へサーっと流れていく。毛穴から細かい汗をかく。寒気を覚える。十二月の霧雨のただ中のよう。五分間が三十秒ほどに感じる。まぶたの裏には切れかけた蛍光灯のようなチカチカした点描。仰向けのままその感覚に身をゆだねていると、一日が終わってしまう気さえする。幸せ...
2019.12.31 13:17『ハーピーエンド』著者:Arata.S遮断桿が降りて道路が完全に封鎖されると、人通りで混雑する場所の踏み切り前は行列ができる。先週、込み合うことで定評のある駅前の踏切で電車が通り過ぎるのを待っていたら、自転車に乗ったハゲで浅黒い小太りのおっさんが最後尾から最前列に割り込んでいく場面にかち合った。おっさんは目をギョロ付かせており、ぶつぶつと独り言を喋っている。遅っせえな、だの、チッ...という舌打ちが3メートル離れていても聞こえてきた。周囲にはエアポケットが出来上がっている。苛立っている原因はわからないしわかりたいとも思わなかったが、ママチャリのペダルにかけた足は貧乏揺すりでせわしないうえにリアクションがうるさく非常に目障りで、できれば視界から消えてほしい、入るべき場所に収まってほしいなどと...
2019.02.28 13:40『タイトル論』執筆者:Arata.Sみなさん、タイトルはお好きですか?俺は大好きです。昔からずーっとそうでした。タイトルを見て本を買い、映画を見て、音楽を聴いてきました。それくらいタイトルは、作品選びにおいて大切な基準です。基準、なんて格式ばった言葉を使っていますが、単純に良いタイトルの作品は中身も伴っているんじゃないかなと、そう思っているだけです。タイトルは本当に大事な言葉です。軽視している作家さんは、世界中誰一人いないでしょう。いたら俺と雑談しましょう。電話しましょう。「いま、会いにゆきます」「君のタイトルは。」「題ハード」「万葉集」が「二葉集」だったら、掃いて捨てられるでしょう。「金閣寺」が「きんかくし」だったら、小学生だって笑わない。「葉隠れ」が「雲隠れ」だったら、なに一つ見つか...