2020.06.16 09:25『三景 第三景「町田(後編)」』著者:へっけ※前回の『三景 第三景「町田(中編)」』はこちら第五節「言葉にならない、笑顔」(1) 深い呼吸、体重の減少。嶺は、少しずつ衰弱してきている。昨日よりも今日、今日よりも明日と日を重ねるごとに、その瞳の潤いが失なわれていく。食後の嘔吐が頻回に見られて、満足に栄養を摂取できていない。でも目が合うと、残り僅かな気力を振り絞って僕を睨めつけるのだ。夏子を部外者たる僕から守ろうとしているのか。でも僕は別に、夏子に危害を加えようなんて思ったこともないし、むしろ彼女の助けになろうと考えながら生きている。僕が考えている最善の案は、嶺にとっては受け入れ難いものだろう。冗談じゃないと思うだろう。しかし、仕方ないではないか。僕と夏子の時間、空間の中には、他に何も存在しない方が...